チャンジュンはイライラしていた。その原因がその手に握られたラブレターであることには気づいていた。
「ソンユンオッパに!!」
クラスの女子に半ば押し付けられたそれが憎たらしくてたまらなかった。 同じ会社だからって?何だよ、それならりゅすじょんさんに頼めばいいだろ?やっと俺も告白されるのか!とウキウキして屋上に向かったこの気持ちを返して欲しい。思えば、高校に入ってからいつもこうだった。
*
「響きエンタ練習生のイチャンジュンです!よろしくおねがいします!」
初日はまだ良かった。会社の先輩グループがとても有名なので、その手の質問が多くなることは予想済みだったから。そのうち俺も目立てるだろう、そう思っていた。
しかし、翌日登校してみれば、何だ?
「ちょっと!イチャンジュン!ソンユン先輩と今日一緒に来てなかった!?」 「来てたけど?」 「どういうこと!?仲良いの?」 「同じ会社だし宿舎に住んでるから。」 「なにそれ!?言ってよ!!!つか羨ましいわ! 「ちょ、レア写真とかないの?」
チェソンユンは高2の途中で転入してからというもの、学内ではそれなりに有名人で、所属会社がどこかなど忘れていた生徒が多かったようだ。 女子たちの話を総合すると、顔が良いのはもちろんのこと、一見クールで冷たい印象なのにたまにでるおちゃらけた一面が刺さるとか、体育祭での活躍が凄まじかったとか。中でも代表リレーはダントツ1位だったようで一気に人気が出たらしい。現役アイドルや芸能人の卵だらけの本校において、練習生はまだ身近に感じられるためか、狙っている生徒は多いのだ。 それからは女子から話しかけられるたび、聞かれるのは "ソンユン先輩と仲良いの!?" "連絡先は!?" "好きなタイプは!?"……そんなのばっかりだった。 いずれバレることだったとはいえ、自分から話さなければよかったとチャンジュンは何度も後悔した。
「俺は!?俺には興味ないわけ!?」 ソウルに出てきて新たな生活に心躍る、青春真っ只中のティーンエイジャーイチャンジュンの心は少なからず傷ついていた。
「チャンジュナ、もう支度しないと遅刻だよ?」 「もう少し寝させてください…先行っていいですよ。」 「はぁ…。じゃあ二人で怒られないとね。」
「忘れ物思い出しました!!」 そう告げて、乗る瞬間にバスを飛び降りてみた時もソンユンは次のバス停で降りて、走って戻って来た。 「ほら、早く取りに行くぞ!」 「あ…いや…勘違いでした。ごめんなさい。」 「そ?なら良いけど。次のバスだと遅刻だね。」 ソンユンは怒りもしないで、ただそう言って笑った。
「怒られてるソンユンオッパレア!ナイスイチャンジュン!」 とか後でまた言われるんだろうな。今日も逃げられなかったとチャンジュンはガックリと肩を落とした。我ながらいい作戦だと思ったのに。
結局の所、同じ宿舎だから登下校時間をわざとずらすなんて不自然だし、喧嘩しただのあらぬ噂をたてられても迷惑だ。それでも・・・ソンユンの付属品としてしか見られない今の状況にチャンジュンのフラストレーションはたまる一方だった。
校内でも、給食室へ行く時間をずらしてみたり、わざと遠回りして移動したりするけれど、チェソンユンは気づくといつも隣りに居た。 「チャンジュンはどこにいるかすぐ分かる。簡単に見つかるよ。」 少なからず目立っているからそう言ってるのだろうか?嬉しいけど複雑だった。だとしたらそっとしておいて欲しかった。 ・・・ソンユニヒョンが来たらみんな俺を見なくなるでしょう?
「あんたと居るとよく笑ってくれるから至福なのよ。ありがたいわ~!」 なんて俺の気も知らないで感謝してくるクラスメイトにも飽き飽きしていた。
俺は!単体で!目立ちたいんだ!!! チャンジュンは心の中でそう叫んでいた。
そんなソンユンが絶対にチャンジュンを一人にしないのには、ちゃんと理由があった。ただ同じ会社の先輩練習生として責任感があるからではなかった。ソンユンはチャンジュンのことが恋愛対象として好きだった。初めて会った時から予感がしていて、一緒に過ごすうちに気持ちは大きくなっていた。自分のようにチャンジュンに惹かれる人が絶対に居るはずだから、と、チャンジュンに変な虫が寄り付かないようにわざとずっと隣にいるのだった。チャンジュンのビジュアルと性格で、人気が出ないわけがないから。
チャンジュンの"反抗期"は、同じクラスに女子の練習生が転入してきてからさらに悪化した。これで女子からの依頼がなくなると期待したのがそもそも間違いだった。その子はデビュー準備中のガールズグループの有力なメンバー候補で、これまた注目の的となった。つまり、男子からも取り次ぎを頼まれることとなり、挙げ句の果てには女子の醜い争いにまで巻き込まれる始末だった。姉が居て異性には耐性があるはずのチャンジュンでも、さすがに嫉妬に駆られた女子達は手に負えなかった。 何で俺ばっかりこんな目に遭うんだ?かわいそうなイチャンジュン。気になるなら直接本人に聞いて欲しい。ソンユニヒョンがもっとオープンな性格だったらよかったのか?俺の前だけじゃなくて、普段から色んな表情を見せたらよかったのか?ん?でもそうしたらもっとモテるだけ?ソンユニヒョンと一緒に居る限り解決しない?ソンユニヒョンのことは大好きなのに、いったい俺はどうしたら良いんだろう。いくら考えても建設的な解決策は出て来そうになかった。チャンジュンの脳はすでにキャパオーバーだった。
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だから、チャンジュンはイライラしていた。その原因がその手に握られたラブレターであることには気づいていた。
「ソンユンオッパに!!」
クラスの女子に半ば押し付けられたそれが憎たらしくてたまらなかった。 同じ会社だからって?何だよ、それならりゅすじょんさんに頼めばいいだろ?やっと俺も告白されるのか!とウキウキして屋上に向かったこの気持ちを返して欲しかった。 「ソンユニヒョンには渡せない。」 「何でよ?」 「無駄だから。あ~~~もう!ソンユニヒョンには彼女がいるんだって!!」 思わずそう言ってしまった。しまった、と思ったときにはもう遅くて、その表情のせいでよけいに信憑性が増してしまった。
噂すぐに校内を駆け巡った。 "彼女って誰?" "そんなそぶりなかったじゃん!" "舞踏科のあの子じゃない?" "去年デビューしたあの子は?" "いや、同じクラスのあの子でしょ、2人で居るところ見たもん" "それは掃除当番なだけしょ?" "学内じゃないと思うけど" "じゃあ何、社内恋愛なの?" "えーやだやだ!" 候補ならいくらでも出てきた。芸能に特化した高校なのだから、お似合いの相手などいくらでも思いつくというもの。しかし誰も決定的な"1人"に辿り着くことはできなかった。 「ソンユンオッパ、彼女って・・・」 放課後の校門。ついに覚悟を決めた女子生徒がそう声をかけた。 「ごめん、今日はこいつ問い詰めなきゃだから。」 ソンユンはチャンジュンの首根っこをがしっと掴んだ状態で、にっこりと笑ってそう答えた。連行されるままに帰りのバスに乗り、いつも通り2人がけに並んで座った。 いつもと違うのは重い沈黙が続いていたことだった。
・・・怒ってるよね?許してくれなかったらどうしよう?嫌われちゃったらどうしよう? チャンジュンは内心気が気じゃなかった。
同校の生徒が全員降りたのを確認して、ソンユンがやっと口を開いた。
「それで?チャンジュナ。」 「はい。」 「俺には俺も知らない彼女が居るらしいんだけど。」 「あー…はい…すみませんでした。」 「俺は誰と付き合ってるの?」 「あれは…とっさに出た嘘で…」 「何でそんな嘘ついたの?」 「それは・・・その・・・ラブレターを断る口実に。」 「何で受け取りたくなかったの?」 「ただ・・・ムカついたから・・・上げて落とされたから。」 「あー・・・分かった。自分が告白されると思ったんだ。そうでしょ?」
ソンユンが心なしか楽しそうにそう問い詰めてくる意味がチャンジュンには分からなかった。嘘をついた罰なのだろうか?どうしてこんなに公開処刑みたいな質問ばかり投げかけてくるんだろう?
「チャンジュナ、お前、モテたいの?」 「いいえ?目立ちたいだけです。」
自暴自棄になっていたチャンジュンは、羞恥心をかなぐり捨ててそう答えた。開き直ったのだった。別に、ソンユンに知られて困ることではなかった。 「うーん・・・目立つのは許すけど、モテるのは禁止。」 「何でですか?」 「よーく考えてみて。」 「え、いや・・・分からないですけど。」 「独占欲が強いからだよ。」 「何て?」 「だから、恋人が嫉妬しちゃうよって。」 「俺にそんな恋人いないですよ?」 「ここにいるじゃん。」 「?」 「目の前にいるじゃんか。お前が言ったんだろ?」 「???」 「俺の彼女。いくら考えてみても、チャンジュナ、お前以外思いつかなかったんだけど?」 「かの・・・彼女?俺が?ソンユニヒョンの?男ですけど?」 「だから?嫌なの?両想いだと思ってたんだけど、勘違いだった?」 「・・・嫌じゃないです。勘違いじゃないです。」 「だよね?良かった。嘘ついたこと許してあげるね。もう嘘じゃなくなったし。」
"よくできました" そう母親が幼い子供を褒めるように、ソンユンはチャンジュンの頭をポンポンと撫でた。その優しい手が心地よくて、悩んでたことなんてどうでもよくなってしまう。
「好きだよ、チャンジュナ。」
二人きりのバス停に降り立って、不意打ちの一言だった。 この人には、きっと、一生敵わない。
「俺も。(大好きですよ、ソンユニヒョン)」
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大好きyj大先輩なフォロワさんの設定を素材にさせていただきました! おかげで出だしだけ書いてた練習生yj完成だ~わ~い! 2021.03.30
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