03 ♪Just Friends/MeloMance

お酒は強い方だが、他人の前では絶対に限界まで飲まないと決めている。これに関してはチャンジュンの前でも同様だ。
昨日の飲み会は外野がうるさくていつもより飲まなかったからか、翌日も問題なく6時に起床した。いや、本当はあまりよく寝られたとは言えない。顔を洗って歯を磨き、トレーニングウェアに着替えてから簡単に朝食をとった。スマホを掴み、イヤフォンをしてルーティーンのジョギングに出かける。走っている間だけは余計なことを考えずに済むから、気分転換も兼ねている。1月のソウルは凍えるように寒いけれど、今はこの肌を刺す空気が心地よいとさえ感じる。
♪~♪
漢江で休憩とストレッチをして家までの道を半分ほど戻ったところで電話が鳴る。チャンジュンからだ。
「ヒョン~どこに居るんですか?」
「○○路だけど?」
「早く来て下さいよ!チキン冷めちゃいますよ?」
「おーわかった。ちょっと待ってて。でも先に食べてて良いよ。」
「待ってますよ。じゃ、後で。」
「うん、後で。」
もっと遅くまで寝ている計算だったけど、どうやら早く話したくて仕方ないらしい。ちょうど良く来たバスに飛び乗りいそいで帰宅した。

ピッピッピッピッ・・・ガチャッ
「あ!お帰りなさい、ヒョン!!早かったですね。」
「お前が早く来いって言ったんだろ?」
「とにかくチキン食べましょ!」
「いや、その前にシャワー・・・先食べてて良いって。」
ささっと汗を流して脱衣所に出たところで、着替えを忘れたことに気付いた。タオルを巻いてリビングに出ると、飲み物を用意してソファでくつろぐチャンジュンがちらっとスマホから目線を上げる。
「あ、ヒョンもう出たんですか?」
「おー。」
これがデヨリヒョンだったら顔を真っ赤にしてそらすんだろうか。あまりにも長い時間を共にしすぎて、"兄弟"が板についてしまったんだ。そう望んで選択したのは自分なのに、何気ない一瞬一瞬にいちいち傷つくなんて馬鹿みたいだ。
部屋に入って適当に部屋着を身にまとい、深呼吸を一つしてからリビングに戻った。もう何回目か分からないのに、恋愛相談を受ける前はいつも覚悟を決める必要がある。表情管理が特に重要だ。

「何味買ってきたの?」
「フライドとヤンニョムですよ。ちゃんとチーズボールも!」
「おー偉い偉い。」
半分ほど食べたあたりで、チャンジュンがそわそわし出すのが分かった。いつ言い出そうかと迷っているのだろう。常に全力で真剣で、疲れないのだろうかと思う。
「恋愛相談しに来たんだろ?今回はデヨリヒョンか。」
「え!?気付いてたんですか?」
「何年お前と居ると思ってんだよ?ドストライクだろ。」
「そう思ってたならもっと前に紹介してくれたって良かったんですよ?」
「やだよ、面倒くさい。」
出会いを阻止する気は無いし、恋に落ちるのはチャンジュンの勝手だが、自ら出会いをセッティングするのはお断りだ。運命なのであれば、然るべきタイミングで交差するはずだし、実際今そうなっているじゃないか。
"チャンジュンの好みのタイプだな"
1年前、デヨリヒョンに初めて会ったときにそう思ったのを覚えている。すらっと高い背、長い手足に面長のバランスの良い顔。チャンジュンが今まで好きになった人達の特徴を悉く有していた。部活と専攻が同じで2人とも教職をとっているので自然と一緒に行動するようになったが、知れば知るほどその予感は確信に変わっていった。一般受験組のなかでも人一倍練習に打ち込み、それでいて学業も決しておろそかにしない。決して器用なわけではないから、常に努力しているのだ。人一倍周りが見えていて、まとめるのが上手く、頼れるお兄さんという表現がよく似合うヒョンだから、人付き合いが苦手な俺でもここまで仲良くなれたのだった。
俺が協力などしなくとも、チャンジュンの性格ならすぐにデヨリヒョンの懐に入り込めると思う。デヨリヒョンならチャンジュンの気持ちを受け止めて、上手くいけば受け入れてくれると思う。

「わー・・・ソンユニヒョンがそこまで褒めるなんて、本当にデヨリヒョンはいい人なんですね!」
「胸を張ってオススメできるヒョンだよ。お前、珍しく見る目あったな?」
「男でも大丈夫なら、いいんですけど。」
「弱気になるなよ。いくらでも協力するから。」
こうもポンポンと奥底にある想いと正反対の言葉が紡げる俺は、将来天才詐欺師になれるんじゃないだろうか?誰かを想い傷ついて涙を流すチャンジュンをもう見なくてすむのなら、俺はいくらだって嘘を吐いてやるんだ。キューピットにだってなってやるんだ。
「そういえばヒョン、昨日告白されてましたよね?」
「記憶あったんだ?」
「可愛い子でしたね。大会でも毎回評判でしたよ。告白されるってどんな気分なんですか?」
「へぇ。別に・・・何てことないよ。」
「さすが、モテる男は違いますね~。俺も告白されてみたいなぁ。」
"俺がしてあげるのに"
のどまで出かかった言葉を慌てて飲み込んで、適当に相槌を打った。冗談を装ったとしても、口にするにはあまりに重い一言だと頭の中で警告音が鳴ったのだ。俺からの告白なんてチャンジュンは望んでいない。ゆめゆめそのことを忘れるな。自分自身に釘を刺して、最後の一個のチーズボールを口に放り込んだ。

履修登録はネカフェで3人で行った。いくつか同じ講義が取れたとチャンジュンはとても嬉しそうだった。俺は時間の許す限り不必要な講義―野球やバレーなどの他競技を含む―を詰め込んだ。部の練習と個人的なトレーニング、体育で疲れ果てて寝るのが理想だった。そうでもしないと、隙あらばデヨリヒョンの横にぴったりくっついて歩き、"好き"を振りまくチャンジュンの姿が永遠に脳裏にちらついて眠れなくなるのだった。
加えて彼女からの誘いに振り回されていれば、1ヶ月なんてあっという間に過ぎていった。

中間試験の準備期間は今までで1番の試練だった。なぜなら、彼女とチャンジュンとデヨリヒョンの4人でスタディールームに籠もることになったからだ。今まで1人で気ままに勉強してきたのに、まるで"ダブルデート"のような拷問に耐えなければならなかった。
これは、初めての大学のテストが不安だからと過去問やノートを所望したチャンジュンとウォニの画策だった。仕方なく2人がとっている講義のデータやノートを引っ張り出して、いつもより何倍も重い肩と足を何とか動かして図書館までやってきた。

「これだけですか?本当に出席してたんですか?」
ノートを広げてやると、2人ともかなり不満な顔をのぞかせた。
「休まず行ったし評価も良かったけど?」
「全然参考にならないじゃないですか・・・。」
「ははは、ソンユンは確かにあんまりノートとってる印象ないな。」
「その講義は教科書読んでおけば問題ないんだよ。そっちは過去問あればいける。」
ノートは必要最低限ですませていたし、チャンジュンから呼び出されば抜け出していたから、真面目に受けていたかと言われればそうではなかったけれど。"お前のせいだろ"とチャンジュンに言ってしまいたくなる。
「でもオッパ、過去問はとってもありがたいですよ!」
「ここに入ってるから。」
USBを渡して、任務完了とばかりに席を立ってみても逃げることは叶わず、結局丸々1週間付き合わされることになった。限界まで授業を詰め込んでいたおかげで日中はほとんど席を空けることが出来たことが、せめてもの救いだった。ウォニだけが講義で抜けて3人になってしまったときは、疲れたと言って机に伏せて仮眠をとった。目の前で2人がいちゃいちゃしている空間で勉強に集中するなんてそこまでの鋼のメンタルは生憎持ち合わせていなかった。チャンジュンと2人になればいやでも惚気を聞かされるし、4人になれば視界に入れざるを得なくなるのだから、少しくらい心を休ませて欲しかった。

そして、長い長い1週間が終わり、試験期間を翌日に控えた日曜日の夜。徹夜はキツいからと先にデヨリヒョンとウォニが帰り、寝落ちしているチャンジュンと2人でスタディール―ムに残された俺は、気持ちが緩んでいたらしい。肘をついてしばらく寝顔を眺め、無意識に手が伸びていた。
「チャンジュナ・・・」
頭を撫でると、ピクっと少し反応した気がして慌てて引っ込めた。 その場面を忘れ物を取りに戻ってきたウォニに見られていたことを、ソンユンは知らない。ウォニは今まで感じていた違和感の答えを見つけて逆にすっきりし、試験期間後に自分から別れを告げた。
「自分を全く見てくれない人とこれ以上一緒には居られません。短い間でしたがありがとうございました。」

時をほぼ同じくして、試験お疲れ様の飲み会では、チャンジュンが遂に核心に近付こうとしていた。さすがに気付きつつあったデヨリヒョンから、ソンユンは初めて相談を受けた。
「僕のことどう思ってますか?って聞かれたんだけど、どういう意味だろう?」
「その時のチャンジュンふざけてましたか?」
「いや、真剣だった。」
「じゃあそのままの意味ですよ。2ヶ月一緒に過ごしてきて、デヨリヒョンも感づいてるんじゃないですか?」
「どこまで本気なのか分からなくて。」
「チャンジュンはいつだって全力で恋するタイプですよ。幼馴染の俺が保証します。向き合ってあげて下さい。」
「可愛いと思うし、とても良い子だと思ってるよ。」
「デヨリヒョンになら安心して任せられます。受け入れられないのは仕方ないですけど・・・意識してみてくれませんか?お願いします。」
すべては誰よりも大切な人の幸せのため。そう自分に言い聞かせた。

前期の後半は2人の邪魔をしないようにより一層努力を重ねた。付き合っていなくとも、学外で遊ぶ機会も増えたようだ。それに反比例するように、チャンジュンからの相談は減っていった。ついに役目が終わったんだとその時確信した。
そして期末テストの飲み会の後から2人は付き合いだした。きらきらの笑顔で1番に報告してきたチャンジュンに最大限のお祝いの言葉を贈り、7月末の大会まではとにかく練習に打ち込んだ。

チャンジュンが高2のときから何度も言っていた、"大学のリレーを一緒に走って、金メダルを取りたい" この願いを叶えられたら、もう本当に俺の出る幕は無いと思った。
スターターのチャンジュンとアンカーの俺。同じチームといっても直接バトンを繋ぐことはない。まるで俺たちの距離を表しているようだ。
予選を余裕で通過して、2位で受けとったバトンに6年間の思いを乗せて人生で1番の全速力で逆転した。ゴールした瞬間プツッと緊張の糸が切れたのを感じた。

もうこれ以上は無理だ。




***


チャンジュンを可愛く書けていればいいな・・・。
ソンユン沢山傷つけてごめんね。
2021.03.19


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