06 ♪With.../Infinite


ソンユニヒョンを取り戻すと決めてから、俺は再び各方面をあたった。
『家庭の事情って聞いたわよ。』
『休学届けには保護者のサインが必要なんだから、ご家族は知っているだろう?』
俺のあまりの必死さにみんなが少しずつ手がかりを教えてくれた。口を割ってくれることを祈って、10月最後の週末には実家へのバスに飛び乗った。

「あら、チャンジュナ、どうしたの?」
「突然ごめんなさい。どうしても聞きたいことがあるんです。」
「何かしら?」
「ソンユニヒョンの居場所です。お母さんは知っているんですよね?」
「絶対に言わないって約束したのよ。」
「俺に隠す理由は何て?」
「特には・・・。でも凄く強く言われたから。あなたに話さないなんて不思議に思ってはいたけれど。」
「俺が悪いんです。知らないうちに追いつめてたんです。でも、俺にはソンユニヒョンが必要だから。ちゃんと会って伝えたいことがあるんです。どうか・・・どうか・・・教えて下さい。」
床に座り、深々と頭を下げた。
「ごめんなさい。いくらあなたでも、息子が決めたことに逆らうことは出来ないの。でも、」
ソンユニヒョンのお母さんはそこで言葉を止めて、テーブルの上の手紙の束から取り出した何かを俺の手に握らせた。
「11月16日よ。」
それは軍服を着たソンユニヒョンの写真だった。裏には所属場所も書かれていた。"家を訪ねたときに偶然見つけたって事にするのよ?"と、お母さんがお茶目に笑った。

海兵隊だった。
帰りのバスの中でも、家に着いてからも、公式の動画や写真をひたすらに漁った。行くときは一緒だよって話してたのに。ヒョンに合わせるよって伝えてたのに。おそろいの軍服を着て、ヒョンの周りで笑う同じ隊の男達に黒い感情があふれてきた。肩が触れているだけでむかむかしてしまう。どうして隣に居るのが俺じゃないの?居場所が分かったら、今すぐに飛び出して会いに行きたくてたまらなかった。
半月の間に、俺の写真フォルダは軍服のソンユニヒョンでいっぱいになった。会える日のことを何度も何度も脳内でシュミレーションした。何から話そうか、どう切り出そうか、信じてくれるだろうか・・・。諦める気なんてさらさらないけど、それでも少しは不安だった。


そして、11月16日がやってきた。
宿舎から出て来たソンユンが視界に入っただけで、チャンジュンは胸が苦しくなった。
「ソンユニヒョン!」
チャンジュンの声に気付いたソンユンはすぐに背を向けて走り出した。
やっぱり逃げる気なんだな。そんなこともちろん予想済みだから、スランプを乗り越えてこの日のためにタイムを伸ばしてきたのだった。
今までのどの大会よりも速くただ一心にソンユンの背中を追いかけて、チャンジュンが追いついたときには砂浜に辿り着いていた。しっかりと腕を掴んで引き寄せて、チャンジュンはソンユンを強く抱きしめた。ソンユンは訳が分からず固まっていた。
「愛してる。」
「愛してるんだよ、ヒョン。愛してる。」
「何してるんだよ!?ふざけんな!やめろ!」
そう言ってソンユンはチャンジュンの腕をふりほどき、突き放そうともがいた。チャンジュンは勢い余って尻餅をついてしまった。
「ふざけでないですよ。本心ですよ。」
「今後一切関わるな。」
今まで見たことのないひどく冷たい目でそう吐き捨てて、ソンユンは去って行こうとした。逃がすものかと必死に掴んだ足を引っ張って、弾みで倒れ込んだソンユンに馬乗りになった。
さあ、もう身動き一つ出来ないでしょう?
それでもこっちを見ようとしないソンユンに、チャンジュンはたまりにたまった想いを爆発させた。
「何で信じてくれないんですか?愛してるって言ってるじゃないですか。」
「黙って消えるなんてひどいですよ。事件にでも巻き込まれたんじゃないかって・・・心配したんですよ?探し回ったんですよ?休学って・・・兵役って何ですか?俺に何の相談もないなんておかしいでしょう?連絡も取れないし!誕生日プレゼントだってまだ受け取ってもらってないですよ?秋夕だって一緒に帰りたかったのに!話したいことだっていっぱいあったのに・・・講義の内容なんか全然頭に入ってこないし・・・タイムは落ちるし・・・挙げ句の果てにはデート中だってソンユニヒョンのこと探してたんですよ?どこに居ても誰と居てもソンユニヒョンのことばかり考えてたんですよ?」

感情の高ぶりと共にいつのまにか溢れていた涙が、ポタポタとソンユンに落ちてきた。やっとソンユンはチャンジュンの目を見た。うるんだ瞳にはしっかりとソンユンが映っていた。ぬれた長いまつげですら愛おしくて、決心が揺らぎそうになる。
「さびしかったです。会いたかったです。お願いだから・・・俺の前から勝手にいなくならないで下さい。ずっと俺の側に居て下さい。俺にはソンユニヒョンしか居ないんですよ。」
ソンユンが口を開くより前にチャンジュンが襟元を掴み、上半身を引き寄せて口づけをした。それまでずっと半分夢だと思っていたソンユンだったが、確かな熱を感じてはさすがに信じざるを得なかった。恐る恐るチャンジュンの背中に手を回し、上体を起こした。驚いたチャンジュンが一瞬唇を離したが、すぐに再び合わせると、さっきよりずっと長く深い口づけが交わされた。
「愛してますよ・・・ソンユニヒョン。俺と恋愛してくれますよね?」
「俺でいいのか?」
「ヒョンじゃないと嫌ですよ。言ったでしょう?俺にはソンユニヒョンしか居ないって。ヒョンが居ないと息が出来ないんです。知らないうちにヒョンの存在が誰よりも何よりも大きくてかけがえのないものになってたんです。ヒョンがいるだけでいいんです。だから、俺のこと諦めないで下さい。ずっと捕まえてて下さい。愛してる、ソンユニヒョン。」
"愛してる"
ソンユンがずっと聞きたかった言葉。一生聞くことはないと最初から諦めていた言葉。今その言葉が自分に向けて何度も発せられることで、自分の意思で固く閉ざし凍り付かせてきた心がじわり、じわりと溶け出してくる。チャンジュンが嘘をつくような人間じゃないと分かっているから、心の中で一人何度も呟いていたその言葉をついに口にした。
「俺も。愛してる。チャンジュナ。」
墓場まで持って行くはずだった言葉。罪だとさえ思っていた言葉。チャンジュンに言わされることになる日が来るなんて、ソンユンは考えたこともなかった。
「良かった・・・!もう絶対逃げないで下さいね?ずっと一緒ですからね。」
"チャンジュナ"
その優しい呼び声に、チャンジュンの瞳からまた涙がこぼれ落ちた。
「泣くなよ。側に居るから。何にだってなってあげるよ。」
ソンユンはそっとチャンジュンの頬を拭い、目元に口づけた。

砂浜に二人肩を並べて座り、しばらく波を眺めていた。





***

やったー!ハピエン!!!
遠距離は続きますが・・・幸せに暮らすことでしょう!

2021.03.26


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