お前が幸せならそれでいい。俺はどこに居ても、お前の幸せを1番に願ってる。
お前の隣で笑うのが俺でないことは分かってる。だからこの気持ちは・・・表に出したりしない。

01 ♪the same place/Nam Woohyun

俺には二つ下の幼馴染がいる。初めて会ったのは幼稚園の頃だっただろうか。姉同士が同い年で仲が良く、弟の俺とチャンジュンもすぐに打ち解けたのを覚えている。2人とも足が速く、短距離のクラブに入ったことも大きかっただろう。
明るく元気で無邪気な笑顔が可愛くて、人懐っこくムードメーカーな彼は小中高、教室でも部活でも、どこに行っても人気者だった。そんな彼と幼馴染なことが、俺は密かに誇らしかった。中学に上がって学校が離れるまでは、本当の兄弟のように一生付き合っていくのだろうと思っていた。

中学男子は多感な時期だ。部活に入れば先輩達から色々と教えを受け、そういうワードをふざけて言い合って楽しんだりする。女子からすれば大迷惑で、ガキと言われるゆえんだ。好きなタイプの話やクラスの中なら誰が良いだのの話に上手く乗れない自分に気付くのに、そう時間はかからなかった。雑誌の女優やアイドルには全くピンと来なかったし、学年一可愛いと騒がれる女子にも心は動かなかった。 その時はまだ、完全に自分の気持ちに名前をつけられてはいなかったし、まだ興味が無いだけなんだろうと思っていた。

ハッキリと自覚をしたのは、中3になってチャンジュンが入学してからだった。体力テストの50メートル走で学年最高タイムをたたき出した頃から2,3年の女子にまで目をつけられ、幼馴染なことをどこから聞き出したのか、俺に紹介しろと迫ってくる奴も居た。どんどんと胸の奥に渦巻いていくモヤモヤに、俺は認めざるを得なかった。認めたからと言って、特段何かが変わるわけではない。"幼馴染"という関係が壊れることが何より恐かったから、一生隠し通すと心に決めた。余計な詮索をされないために、タイミングよく告白してきた女子と付き合うことにしたくらいだった。
おかげでそれからも関係は変わらず、部活がある日は登下校を共にし、勉強を教えたり、ヒマな日には互いの家に入り浸りゲームをして過ごした。姉たちからはあまり歓迎されて居ないようで、小言を言われることもあった。
「あんた達、いつまで2人で遊んでるわけ?彼女の1人でも作りなさいよ。」
「ヒョンには彼女居るよ?ダンス部の可愛い人。」
「へ~え?でも休日にデートもしないんじゃすぐフラれるよ?」
「部活ない日くらい休みたいんだよ。」
「休む、ねぇ・・・。ま、まだまだお子ちゃまって事ね。」
姉の指摘はあながち間違いではなかった。その頃の俺はまだ相手に合わせる気などさらさら無く、"陸上部エースの彼女"の肩書きをレンタルしているような感覚だった。チャンジュンや周りに、本心を勘ぐられなければそれで良かったのだ。

しかし、それにも限界が来た。
高3になり、再びチャンジュンが同じ高校、同じ部活の後輩として入学してきてすぐのことだった。
「ヒョン、ちょっと公園に寄っても良いですか?相談したいことがあって。」
新年度初の練習の帰り道、最寄りのバス停を降りたところで、チャンジュンが神妙な面持ちでそう言った。人気の無いベンチを選んで腰を下ろすまで、頭の中でぐるぐると思いを巡らせていた。
「俺、恋愛対象が男なんです。」
深呼吸をして、覚悟を決めたのか、チャンジュンが不釣り合いな小さな声でカミングアウトをした。
一瞬、心臓が止まるかと思った。ほんの1ミリ、期待している自分がいた。
「おお。」
「・・・軽蔑しないですか?」
「しないよ。」
「良かった。ヒョンならそう言ってくれる気がして。」
「それで、相談って?好きな人でも出来たのか?」
「あー・・・はい。同じクラスの、バレー部の子なんですけど。」
一気に暗闇に突き落とされた感覚だった。分かってた。現実はそう上手くはいかないって。そもそも、ここで告白でもされてたとして、俺は自分の気持ちを話しただろうか?否。付き合ってしまえば、いつか別れが来る。気まずくなって他人になるくらいなら、幼馴染として側に居ることを選ぶ。それでも、俺とは全然違うタイプであるその男に、心の中で嫉妬することだけは許して欲しい。

「ヒョン」
真面目な顔の時は、難易度の高い相談だ。お家デートはそういうことなのか?とか脈あると思う?とか。
「ヒョン!!」
眩しい笑顔でハイテンションな時は、関係が進展した報告だ。"友達として"遊びに行くとか一緒に帰るとか些細なことが多かった。
「ヒョン・・・」
泣きそうな時は、話を聞いて、胸を貸してあげる。チャンジュンは面食いでことごとくノンケを好きになるから、叶うことはない。好奇心から遊ばれたことがあったり、彼女ができたり、好きな子の話をされては恋が終わる。
傷つく姿なんて見たくないけど、立ち直りが早くすぐに新たな恋を見つける彼の眼中に俺は居ないから、俺には幸せにしてあげることが出来ない。

他の男に恋をして、俺に見せない表情を向けるチャンジュンを少しでも視界に入れないためにも、俺は前よりは誠実に"普通の彼氏"を演じるようになった。中学の時と違って、一緒に帰ったりデートに応じることも増えた。そうすれば、自然とチャンジュンと過ごす時間は減っていく。

俺なりのせめてもの決め事は、どんなときでもチャンジュンを優先すること。彼に頼られたら、求められたら、デート中だろうが部活だろうが関係なく会いに行った。一足先に大学生となって得た一人暮らしの部屋の合鍵だって、いつでも駆け込めるシェルターとして渡した。そしてこの部屋には、絶対に彼女は招かないと決めていた。チャンジュンにとっての1番には一生なれなくても、俺の中の1番はいつだってチャンジュンであることを、常に欺いている自分の心にだけは示しておきたかった。

そして、大学3年のあの日を境に、俺たちの関係は大きく変わっていくことになる。





***

新境地。ひぃー難しい!けど楽しい!


Copyright (c) XXX All Rights Reserved.
inserted by FC2 system